“旨味” 伝統的製法から生まれる日本茶独自の風味
日本の緑茶は全く自然発酵をさせない無発酵茶であることが、その風味の特徴を決定づける最大の要因となっています。現在、世界で流通している緑茶のおよそ90%を中国産が占めています。その多くが釜で炒ることで自然発酵を止める製法を用いた「釜炒り緑茶」が主流で、柔らかい口当たりと香ばしい香りに特徴があります。
釜入り製法
“釜入り玉緑茶”
日本でも一部地域では、釜入り製法で緑茶が生産されていますが、主流となる製法は、世界でも稀な伝統製法である、蒸気で蒸すことで自然発酵を止める「蒸し製緑茶」なのです。生葉の鮮やかな緑色と自然な青葉の香りが強く、煎茶から抹茶まで全ての茶種に用いられ、日本産緑茶の特徴を決定づける最大の要因となっています。この製法の違いから、日本の国外で伝統的な日本産緑茶を味わうことは難しい状況にあります。
蒸し処理後の茶葉
“普通蒸し煎茶”
また現在、日本国内で生産される品種は「やぶきた」という単一品種がその品質の高さから総生産量の75%を占めています。そして製法においては、長めの蒸し工程を施す「深蒸し製法」が広く普及したことで、緑茶の味は画一化の傾向にあり、日本においても伝統的な風味を味わうことが容易ではありません。
緑茶に含まれる、第5の味覚成分”旨味”
現在、世界から日本食に注目が集まっています。実は日本食が持つ風味の特徴は、伝統的な日本産緑茶の大きな特徴でもあります。美味しい食事を表す日本語に「旨い」という形容詞があります。味覚成分には主に「甘味、塩味、酸味、苦味」があります。日本料理の世界では、ラーメンから懐石料理まで、第五の味覚成分「旨味」が必須の味覚要素として扱われています。
味覚とは、舌の上部で味を感じる細胞組織である味覚受容体を通して脳が認知するものです。2000年に米国で初めて”旨味”に反応する 味覚受容体細胞/T1R1+T1R3 が発見されました。日本では1908年に、東京大学 池田菊苗 教授の研究により、昆布から分離抽出した成分・グルタミン酸ナトリウムから旨味成分の存在が明らかになっています。この研究から多くの伝統的な日本料理は、昆布をはじめとする多様な旨味成分を持つ素材を生かした料理法を用いたものであることが実証されました。
これまで旨味に関心をあまり払わなかった欧米の料理界では、旨味受容体の発見を受けて調味料としての可能性に注目が集まり、積極的に料理に取り入れるようになりました。実は、世界の日本食ブームの影には、未知の味覚成分”旨味”との出会いがあったのです。
上質な緑茶の条件は、この旨味み成分・テアニンなどのアミノ酸類が多量に含まれ、渋味、苦味を含めた全体のバランスがとれていること、豊かな独自の香りを有していることなどが、研究から明らかになっています。緑茶は千年を越える歴史の中で、さまざまな製法の試行錯誤の末に生まれたもので、砂糖やミルクなどを一切加えることなく、旨味や甘味の中に苦味や渋味など、複数の味覚がバランスした世界でも稀な飲み物なのです。
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